【現地検証】御杖村の新設1億円トイレ
住所:宇陀郡御杖村桃俣48
2025年秋の終盤、奈良県御杖村にある“1億円トイレ”の存在を知りました。場所は曽爾村のすぐ隣、御杖村
の西の玄関口「桃俣・鞍取」地区です。
人口わずか1,200人強、高齢化率60%超という過疎の村が、村の魅力を発信すべく整備したこの施設は、
2024年2月に完成したばかりの新築同様の公衆トイレ。
メディアでも話題となり、「1億円の公衆トイレ」として注目されているのを知った私は、その真価を確かめ
たくなり、現地へ向かいました。
曽爾村から御杖村・桃俣の“1億円トイレ”へは簡単にアクセスできる
国道369号線を車で走っていくと、まず曽爾村の掛(かけ)集落に入ります。

国道369号線沿いの風景
県道81号線との分岐点に差し掛かる手前で、青い大きな案内標識「御杖369」が見えてきます。これを目印
にし、大きな橋(新愛宕橋)を渡らず、その手前を右折してください。

国道369号線沿いの風景
掛の公衆トイレ
この掛集落内には、公園に隣接した小さな公衆トイレと、約3台分の駐車スペースがあります。

掛のトイレ
なお、このトイレの建設費は2004年当時で約1,170万円だったとされ、話題の「1億円トイレ」からわずか1.7kmの場所に位置しています。
また、すぐ近くには地元の野菜を扱う直売所もあり、筆者が訪れた11月には主に週末限定で営業していました。
「12月は4日だけの営業。冬場は閉める予定です」と現地の方が教えてくださいました。
お立ち寄りの際は営業状況をご自身で確認されることをおすすめします。

掛の直売所の11月の営業案内。もう月は過ぎたけれど、こういう手書きの紙に、静かな温もりがあります。
御杖村へと入る
大きな橋のある交差点を右折し、国道369号線(伊勢本街道)を進みます。
進行方向左手には清流・青蓮寺川が寄り添い、穏やかで美しい風景が広がります。

青蓮寺川沿いの風景
やがて、小さなダムが見えてきます。この周辺が、曽爾村と御杖村の村境です。

小さなダム
御杖村の“1億円トイレ”を実際に使ってみた

朝7時30分頃に現地到着。駐車場は乗用車6台分+障害者用1台、単車4台分とコンパクトな設計です。
隣には倉庫があり、バスが1台でも入れば、かなり窮屈に感じる広さでした。

コンパクトな駐車場
滞在中、男性トイレを利用する人が3〜4人ほど。知名度が高く、注目されているトイレであることを実感
しました。
駐車場周辺の景観と装飾
青蓮寺川の清流が横を流れ、夏には蛍も見られるという自然豊かな立地。
川沿いにはベンチや石で空間を区切るような配置がされており、トイレ横の終端部には、石床と白い小石で
東西南北を示す十字模様も見られました。

青蓮寺川
さらに、枯山水風の白い小石と庭石の意匠もあり、アート的な演出が随所に施されています。
しかし個人的には、「この予算で屋根付きのベンチや複数個室のトイレにしてくれたら…」という思いが拭え
ません。

ベンチと石のアート

白い小石と庭石で構成された、枯山水のような意匠と東西南北の方位計
実際、設計費は700万円と報道されており、その内容にしては設備面の工夫に乏しいと感じる点もありました。
手洗いは3つ。うち1つはオストメイト対応?

施設には男女それぞれ1室ずつトイレがあり、内部の構成は同じ。
清潔感と設備の充実度は高く、手洗いは3つありました。
そのうち1つはオストメイト対応の設備で、後から気づくほど自然に設置されています。

オストメイト対応の便器
「オストメイト」という言葉、初めて聞いた
「オストメイト」という言葉をご存じでしょうか?
私は現地で初めて知りました。これは、人工肛門や人工膀胱を必要とするストーマ保有者を指す和製英語
で、「ostomy(オストミー)+mate(仲間)」を組み合わせた言葉です。

ストーマ保有者
日本には20万人以上のストーマ保有者がいるといわれています。
「あなたはオストメイト」と言われたら?
医学用語として使われているとはいえ、カタカナの和製英語で呼ばれるのは当事者にとって違和感があるかも
しれません。私自身、あまり呼ばれたくないと感じました。
「すごい設備」なのに、誰にも伝わらない

男子トイレ

ベビーベッド・ベビーチェア・フィッティングボード


マークだけでは不親切。説明の掲示が必要
トイレの入口には5つのマーク、そして「トイレご案内」と書かれた案内板が1枚掲示されています。

女子トイレ入口
しかし、せっかくの多機能トイレであるにもかかわらず、設備の説明がほとんどなく、利用者がよく分からず
に終わってしまう可能性があります。

トイレご案内

案内板の間違い
この案内板には明らかな誤表記がひとつあります。
「オストメイトマーク」に「オストメイト」と書かれているのです。
本来、「オストメイト」は人を指す言葉であり、設備を示す場合は「オストメイト対応トイレ」などと表記
すべきです。

オストメイトマーク
私も意味が分からず、あとで調べてようやく理解しました。
配慮のための設備だからこそ、誰にでもわかる表記が求められます。
飾り石のコーナーより、まず個室を増やして
ストーマ保有者のトイレ利用には時間がかかるため、1室しかない多機能トイレでは待機者との間で誤解
が生じやすいといいます。こうした問題を避けるためにも、設備の整備や個室の増設が求められます。
まとめ
御杖村の西玄関として建設された「1億円トイレ」。その美観や設計意図は理解できるものの、使用者の立場
から見ると、設備面や案内表示の面でまだまだ改善の余地があると感じました。
観光客を迎える「顔」として機能させるなら、使いやすさと伝わりやすさをもう少し重視してもよいのでは
ないでしょうか。

